《季節の薬膳》イライラしやすい春をごきげんに過ごすための薬膳レッスン
薬膳の世界では、「天人合一(てんじんごういつ)」といって、自然界と人間は切っても切り離せない関係であると考えます。
季節の移り変わりなど自然界の影響を多大に受ける私たちの体と、上手にお付き合いをしていくコツが「季節の薬膳」に詰まっています。
季節によって食べるものや過ごし方を工夫し、365日を健やかに過ごす「ごきげん美人さん」を一緒に目指してみませんか?
今回は季節の薬膳《春編》をお届けします。
目次
イライラしやすい春をごきげんに過ごす季節の薬膳
春先はデトックスを心がける
季節の薬膳を考えるときには、「立春」から「立夏」までの3ヶ月を「春」と捉えて考えていきます。
(立春から雨水・啓蟄・春分・清明・穀雨を経て立夏を迎えます。)
この3ヶ月は生長・発育の季節。
植物は芽を出しやがて新緑の季節を迎え、動物は冬眠から目が覚めて活発に活動し始めます。
寒い日と暖かい日を繰りかえしながら、気温も徐々に上がり始めます。
気温の上昇にともなって、私たちのからだ表面の出入り口(毛穴など)が緩み始めますが、
この緩んだところに、外からのよからぬもの(外邪)が侵入しやすくなります。
また、冬からのつながりで抵抗力が弱っているため、この季節は感冒など、ウイルスや細菌感染に注意が必要です。
なんせ暖かくなると自然界すべてのものが活発になりますから、ウイルスや細菌の繁殖にも注意が必要なんですね。
冬の養生ではなるべくからだを休ませて、しっかりと蓄えることが大事でしたが、
その間からだの中に、要らないものが溜まっていたりします。
ぜひとも春は、こういったものをデトックスしたい季節。
春に旬を迎える食材には、「解毒」の効能をもつものが多くあります。
解毒(デトックス)に効く食材
解毒してくれる食材:たらの芽・たけのこ・菜の花・ふき・ふきのとう・しじみ・生姜など。
人のからだにとっては、「補うこと」も大切ですし、同時に「捨てること」も大切になります。
季節を通して言えば、寒い時期は「補うこと」に焦点を当てていきますが、
春からは「要らないものをからだから出す」ということが必要になってきます。
たとえば冬場に1〜2kg体重が増えるのは、ある程度自然なこと。
逆に言えば、春から夏にかけては、ダイエットが向く季節。
ダイエットといっても、厳しい食事制限をするのではなく季節に合わせてしっかり養生していくことで、冬に増えた分はすっきり戻ってなじんでいく、というイメージで。
起きる時間を少しずつ早めていき、お散歩や軽い運動などは「気」の流れをよくするためにも少しずつ取り入れたいところです。
気温の変化が激しいので、着るものの調整をこまめにし、暖かいときには無理のない範囲でからだを動かし、抵抗力をつけていく。
そうして、すっきりと気持ちのいい春を迎える準備をします。
イライラしやすくなるので感情のコントロールを
春の薬膳を考えるときには「気持ちの変化」に注意が必要だとされています。
これは、中医学でいう五臓(肝・心・脾・肺・腎)のひとつの「肝(かん)」に、春は不調が現れやすいから。
「肝」は、「気」の流れを調節したり、「血」を貯蔵する働きを持つのですが、加えて「感情のバランスを整える」働きも担うとされています。
なので「肝」の調子が悪いと、怒りっぽくイライラがつのる、体がだるくやる気が起きない、気分が落ち着かない…などといった症状が出やすいのです。
体質的に肝に不調が出やすい人もいるし、そうでない人もいますが、
春は誰しもが、肝の不調に陥りやすい。
肝の気が旺盛になりやすい春は、しっかり「肝」のケアをしてあげることがポイントです。
食材としては、肝気(肝の気)の流れを調節する食材を取り入れてみるのがおすすめ。
「肝」の気を調整してくれる食材
例えば、三つ葉、グレープフルーツ、ジャスミン、カジキマグロ、ターメリック、サフラン…などは、疏肝理気(そかんりき)と言って、肝気の流れを調節する効果がありますし、
クレソン、せり、セロリ、菊花、トマト、穴子、くらげ…などは
平肝(へいかん)と言って、肝を調節する働きがあるとされています。
「気」の流れが悪くなっていることが多いので、紫蘇やミントなどのハーブ類、柑橘類などの香りのいいものを頂いたり、軽い運動をして「気」の流れをよくするのも効果的。
ちなみに、こちらの食材たちは春だけにかかわらず、普段の生活でも
怒りっぽくイライラする、体がだるくやる気が起きない、気分が落ち着かない、というときにも使えるんです。
そのときどきの症状に合わせて食材を選べるようになると、からだのバランスもどんどん整っていくはずです。
《春の薬膳の献立術》酸味を上手に使う
春に摂りたい「味」を使うのも効果的です。
春は、五臓(肝・心・脾・肺・腎)のうちの「肝」に不調がでやすいのですが、
この「肝」に入りやすい味があります。
それが「酸味」です。
中医学では五臓それぞれに入りやすい「味」がある、と考えるんですね。このへんが少し独特で、薬膳らしい部分。
「肝」に入りやすいのが「酸味」。
「肝」に効いてくれる食材の効能を、しっかり「肝」に届けてくれるのが、「酸味」。
春には「肝」のケアをしてあげたいので、「肝」の機能を調整する食材と、それを「肝」に届けてくれる「酸味」を少し入れると良い、という風に考えます。
酸味の食材と摂り方のポイント
酸味の食材といえば、みかんやレモンなどの柑橘類、梅やトマトなど。いちごやキウイなど、フルーツに多いですね。
ただし、この「酸味」の使い方にはポイントがあって、摂りすぎは逆効果だということ。
春は「肝」を調整するためにも「酸味」は摂っていきたいのですが、その量には注意が必要なんです。
五臓の仲でも「肝」ってのびのびしたい臓なんですね。押さえ込まれたりすると「肝」の調子は悪くなってしまうのです。
で、そこに「酸味」が入りすぎると、「酸味」って”きゅっとひきしめる”ような効果を持つので、それが、本来はのびのびとしたい「肝気」を阻んでしまうことがあります。
「肝気」を阻んでしまっては逆効果。
なので、「肝」のケアはしたいんだけど、「肝」の流れを阻んでしまわないように注意する。
あくまで適量の「酸味」を摂っていく、ということが大切です。
気温が上がるとからだの出入り口が緩み出すので、そこから悪いもの(外邪)が入ってこないように、”きゅっと閉じてあげる”ことも必要。
緩みすぎたときにはやはり「酸味」を使って引き締めるのが効果的です。
これは本当に、体質に合わせて、状態に合わせて摂っていくことがポイントになってきます。
ちなみに、「酸味」は陰陽でいうなら「陰」に属する味です。酸味の食材のすべてがそういうわけではないのですが、どちらかというと「冷やす方向」に向きやすいです。
ですので、もともと冷え性だったり、「冷え」の症状が気になってる方は酸味は少なめに意識するのがオススメです。
逆に、もうなんだかイライラして頭から湯気が出ちゃうような、からだの中で「熱っぽい感じ」があるなら「酸味」をうまく使えるといいかな、という印象です。
また、素直に「酸っぱいものが欲しいかどうか」という感覚に頼るのもひとつ。
「あんまり酸っぱいものは欲しくない」と感じるなら、そんなに頑張って摂る必要もないですし、「なんだか無性に酸っぱいものが食べたい!」と思うときは、からだに合う可能性も。
人の「味覚」ってうまくできていて、からだのバランスが摂れるものを自然と欲していたりします。
春は風に要注意?
春に影響を与えやすい”邪気”についても触れておきます。
”気”の中でも外部からの、不調をもたらしやすい、いわば悪い”気”を
”邪気”とか”病邪”と言ったりします。
例えば、冬に影響しやすい病邪は”寒邪(かんじゃ)”と言って、寒さによるもの。
秋に影響しやすい病邪は”燥邪(そうじゃ)”と言って、乾燥からくるもの…という感じです。
春に現れやすい病邪に、”風邪”(ふうじゃ)があります。
(風邪と書くと「カゼ」と読んでしまいますが、中医学で風邪は「ふうじゃ」と呼びます。
いわゆるカゼのことは、「感冒」と言います。)
”風邪”(ふうじゃ)は風のように、とにかく動きが多く、よく変化します。
こっちがよくなったと思えば今度はこっちの調子が悪い…
痛みを感じる部分がどんどん移動していく…というような感じ。
また、風邪は”舞い上がる”のも特徴で、気を上げすぎるためにイライラ、怒りっぽくなりやすい、精神的に不安定になる…などの不調も出やすくなります。
「百病の長」と呼ばれるのも風邪の特徴で、
これはどういうことかというと、
他の邪をひきつけてくる=さまざまな不調を引き起こしやすいということ。
合わせて、風邪は「陽位を犯す」と言われ、
これはからだの表面や上半身に不調がでやすいことを表します。
この影響で、めまいやふらつき、頭痛、目の不調などが現れやすいと言われます。
変化が多く、不調の部位が定まらず、さらに他の不調も引き起こしやすい。それが風邪の特徴です。
春って、よく風が吹きますよね。春一番とか春の嵐とか。気温も安定してきて過ごしやすい春ですが、いきなり風が吹いてびっくりすることがあります。
暖かいと思って少し薄着をしてみたら、意外に風が吹いていて肌寒かったり、いきなり風で砂埃が舞い上がったり。
そんな、自然界での出来事が、私たちのからだにも、風邪という形で影響をしている、と考えるとイメージしやすいかもしれません。
風邪の影響は年中あるのですが、春先は特にその影響が出やすいのです。
このことを知ってから私は、春の風を感じるたびに身が引き締まる思いです。
春に出やすい不調って、精神的なしんどさとか、めまいとか頭痛とかそれらが代わる代わるやってくるような感じ。なかなか厄介です。
だからこそ、調子を整える、ということをしっかりとやらないと、辛い春を過ごすことになってしまいます。
そしてこの、春の過ごし方はその後の季節にも影響してきて、春先の養生ができていないと梅雨の湿気に悩まされたり、夏バテしたり・・・とそれこそ後々まで、不調を招いてしまう。
春に「風」を感じたら、それはアクセルを緩めるサインでもあるのかもしれません。
ちょっと調子が悪いなと感じたら、しっかり休養をとる、食事を考えてみる、リラックスする・・・
春、風が吹いたら。今一度、自分のからだに耳を傾けたいときです。
《まとめ》春の養生に取り入れたい食材たち
- 老廃物を排出してくれるデトックス食材:たらの芽・たけのこ・菜の花・ふき・ふきのとう・しじみ・生姜など
- 停滞した「気」の巡りをよくしてくれる食材:三つ葉、グレープフルーツ、クレソン、せり、セロリ、菊花、トマト、紫蘇やミントなどのハーブ類、柑橘類など香りのいい食材。
春の薬膳のキーワードは、デトックス・のびのび・感情のコントロール・リラックス・香りのいいもの・酸っぱいもの…
簡単なことからはじめていきましょう。
日々の食べ方・過ごし方を工夫して、ごきげんな春となりますように。